この10数年来、シャンパーニュ地方では、背が高く細長い「フルートグラス」の利用は減りつつあります。
フルートグラスの代わりに、少し丸みを帯びて幅広に設計された「シャンパーニュ用グラス」や、赤・白ワインに使われる一般的な「ワイングラス」を使ってシャンパーニュが飲まれています。
シャンパーニュ地方の現地情報を交えつつ、シャンパーニュのプロ・愛好家からの支持が高い、おすすめのシャンパーニュグラスを紹介します。
シャンパーニュグラスの現地事情
見ることが減った「フルートグラス」
シャンパーニュ用グラスといえば「フルートグラス」を思い浮かべる方は多いと思いますが、シャンパーニュ地方でフルートグラスを見る機会は減ってきています。
フルートグラスの利用が減ってきた理由は、シャンパーニュを泡だけではなく「ワインとして味わう」傾向が強くなってきた背景があります。
フルートグラスは、背が高く細長い形状のため立ち上がる泡を見て楽しむにはぴったりです。
しかし、飲み口が狭いため、シャンパーニュが持つ豊かな香りを十分に感じ取れません。
大手メゾンや輸出市場で人気の小規模生産者を訪ねた時、試飲用にフルートグラスを使うことはなくなってきました。
私が初めてシャンパーニュ地方に滞在したのは2004年。当時は、どの生産者を訪ねても「フルートグラスは、シャンパーニュを楽しむために理想的なグラスです」と説明を受けたものです。この10年ほどでシャンパーニュのグラス事情が一変しました。
シャンパーニュを味わうためのグラス
従来のフルートグラスよりも、より膨らみのある「スティルワイン用」や「チューリップ型」のグラスの利用が増えています。
下の動画は、ランスに本拠を置くオンラインのシャンパーニュ専門店「Plus de Bulles」が作成したYoutube動画「シャンパーニュ用グラスをどうやって選ぶ?」です。
「シャンパーニュの試飲に相応しいグラス」を紹介しています。
全編フランス語ですが、グラスの形状に注目してご覧ください(各グラスの説明は、後述します)。
男性の前に並ぶ6つのグラスについて、端的に説明しています。
シャンパーニュの試飲に不向きなグラス:
- いちばん右:ブリダ。「小さい。ワインの特徴が伝わらない。丈夫で、収穫の時など大人数の時には良い」
- 右から2番目:クープ。「魅力的な形だが、試飲にはメリットがない。幅があり開いた形で、アロマも泡も逃げてしまう」
- 右から3番目:フルート。「代表的なグラスだが、試飲にはあまり向かない。まっすぐで閉じた形状、香りを感じにくい」
シャンパーニュの試飲に向いているグラス:
「少し広がりが合って、開口部は少し狭くなっているグラス。グラス内部で香りが広がり、グラスの口が締まっていることで香りを感じやすい」
- 左から3番目:チューリップ型グラス。「リッチ、ミレジメのシャンパーニュ」におすすめ。Lehmann(レーマン)グラス
- 左から2番目:すらりとしたグラス。「若い、フレッシュなシャンパーニュ」におすすめ。Sydonios(シドニオス)グラス
- いちばん左:Riedel(リーデル)グラス
おすすめシャンパーニュ・グラス4選
ここでは、具体的に4つのシャンパーニュ・グラスを紹介します。
いずれも、シャンパーニュ生産者やランス・エペルネ界隈のレストラン、ワインショップで本当によく見かけるグラスです。
ワイングラス選びの参考にしてもらえたら幸いです。
特に「口吹きグラス」は高価に感じるかもしれませんが、シャンパーニュボトル購入を数本見送っても、グラスを買う価値はあると思います。それほど、香りと味わいに差が出るからです。
Riedel「ヴェリタス」
高級ワイングラスといえば「Riedel(リーデル)」を思い浮かべる人も多いかもしれません。
1756年に創業したオーストリアのリーデル社は、ワイングラスの老舗メーカー。
リーデル社は「同じワインでも異なる形状のグラスで飲むと香りや味わいが変わるという事に着目し、世界で初めてブドウ品種ごとに理想的な形状を開発」しました。
ヴェリタス・シリーズは、マシンメイドですが、そうと知らなければハンドメイド(口吹きグラス)と信じてしまうほど軽いグラスです。
初めてヴェリタスを使った時は、わたしも「ハンドメイド」だと思い込んだひとりです。このページで紹介するグラスの中では、いちばん「丸み」のある卵型の形状。シャンパーニュが持つ「ふくよかさ」を表現するのが得意な印象です。
Zalto「ユニバーサル」
オーストリアのグラスメーカー「Zalto(ザルト)」のグラスはすべて、職人による「口吹グラス」です。
世界中のワイン生産者に愛されていますが、シャンパーニュ生産者も例外ではありません。
特に小規模な人気生産者のドメーヌを訪問すると、ザルト「ユニバーサル(Universal)」で試飲を勧められることが多いです。
生産者によっては、ザルトの「ホワイト(White)」や「バーガンディー(Burgundy)」を愛用する人もいます。
ザルトの商品群の中には、フルートグラス「シャンパーニュ(Champagne)」もありますが、シャンパーニュ地方で支持されているのは「ユニバーサル」です(紛らわしいですが、購入を検討されている方は気を付けてください)。
ユニバーサルは、スティルワインにもスパークリングワインにも使用可能な汎用性の高いモデルです。
上質なワイングラスがほしいと相談を受けたら、わたしなら、迷うことなくザルト「ユニバーサル」をおすすめします。スティルワイン、スパークリングワインの両方に使える汎用性の高さが魅力。高価なグラスですが、投資する価値は大です。
Lehmann「グラン・シャンパーニュ」
Lehmann(レーマン)は、シャンパーニュ地方ランスに本社を構える地元グラスメーカー。
豊富な品揃えの中で、特に人気が高いのはフィリップ・ジャメス氏が監修する「グラン・シャンパーニュ(Grand Champagne)」や「プレミアム(Premium)」です。
ジャメス氏はランスの名門レストラン『レ・クレイエール』(ミシュラン2ツ星)の元シェフ・ソムリエで、シャンパーニュのスペシャリストとして知られる人物。
ワイン専門誌『Cuvée Magazine No.1』に掲載されたフィリップ・ジャメス氏へのインタビュー記事によれば、ジャメス氏は2008年からレーマン社とグラスを共同で、幅広で丸みを帯びた形状とエレガントな雰囲気を備えた高級ガストロノミー向けのグラスを開発しました。
マシンメイドとハンドメイドの両方がありますが、日本では主にハンドメイド(口吹グラス)品が輸入されているようです。
ランス発のブランドゆえ、地元での支持が高く、地元の高級レストランや人気ワインバーで採用されています。シャンパーニュ生産者との繋がりも深く、大手メゾンのオリジナルグラスも数多く手がけています。欧州のお客さまは特に、レイマンを指名買いする傾向がある印象です。
Sydonios「ルニヴェルセル」
Sydonios(シドニオス)は、2018年にフランスで創業したグラスメーカー。
新しいメーカーですが評判は上々で、シャンパーニュ地方でもあっという間に広まった印象があります。
シドニオスのグラスの特徴は、ワイン研究の分野で世界的に有名なボルドー大学との共同研究により「科学的アプローチ」で設計されたグラスである点です。
また、すべてのグラスはハンドメイド(口吹き)で作られています。
「グラスの鍵となる要素は最大直径と開口部の直径の比率」と考え、その比率を用いて7つのグラスのモデルを作成、100人のプロが全てのグラスを使って試飲を行った結果、2つのグラスが選ばれました。
それが、レステート(l’Esthète)とルニヴェルセル( l’Universel)です。
ルニヴェルセル(英語でいうところの、ユニバーサル)は、赤・白・泡ワインのどれにも使える汎用性の高いモデルです。
シャンパーニュ地方でも、本当によく見かけます。
スター揃いの生産者グループ「Terres et Vins de Champagne」の2024年春のプロ向け試飲会では、シドニオスのグラスが採用されていました。シャンパーニュが持つ「キリっとした爽快さ」を引き立てる印象です。
フルートよりも、幅広なグラスの利用が増えている
- 近年シャンパーニュ・グラスは、フルートグラスから「チューリップ型グラス」「ワイングラス」に移行
- 従来のフルートグラスは、泡立ちはきれいに見えるものの、香りはあまり感じ取れない
- チューリップまたはワイングラスの方が、口径・ボウルが広い分、香り・味わいをより感じられる
シャンパーニュの無料教材のひとつ、「MOOCシャンパーニュ」内の動画では、シャンパーニュグラスについて説明している回もあります。
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